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くるしいか
くるしめ
此のくるしみの間より出で來るもの
否、此のくるしみの間にあつて
此の人間のくるしみより生みだせ
新しき世界へ
雄々しきものを
小獅子を
おんみは生死の間にある
おんみを凝視《みつ》める自分をみろ
くるしいか
おおそのくるしみ
此のくるしみ
自分もおんみと一しよだ
ああ偉大なる人間の創造
ああ偉大なる人間の誕生
あかんぼ
暴風《あらし》はさつた
あらし
あらし
あばれくるつて過ぎさつた
そしてそのあとに可愛いいあかんぼを殘して
わすれていつたのか
あかんぼはすやすやと寢床《ねどこ》の上
そのそばにぐつたりとつかれてその母もねてゐる
何といふ麗かな朝だらう
わたしは愛する
風景
何がなくてもいい
これだけでいい
ポプラ一本
くつきりとたかくたかく
天《そら》をめがけてつつ立つたポプラ
大風の日のポプラ
ほえろ
ほえろ
なんといふ力強さを人間にみせてゐることか
ああ空高く
まるできちがひ[#「きちがひ」に傍点]の自分だ
疾風の詩
あらゆるものをけちらし
あらゆるものに吼えかかる疾風
街上をまつしぐらに
疾風はまるで密集せる狼のやうだ
そしてあばれてきて郵便局のぐらす[#「ぐらす」に傍点]の大扉につきあたり
けれどすばやく
くるりとひきかへし
右に折れ
停車場の方をめがけて走つて行つた
そのあとの街上さびしく
もめくちやにされた自分はそこで紙屑のやうにひるがへりつつ
疾風のゆくへをじつとながめてゐた
この疾風はどうだ
それだのに人間の自分は
おお紙屑のやうにひるがへりつつ
友におくる詩
何も言ふことはありません
よく生きなさい
つよく
つよく
そして働くことです
石工《いしや》が石を割るやうに
左官が壁をぬるやうに
それでいい
手や足をうごかしなさい
しつかりと働きなさい
それが人間の美しさです
仕事はあなたにあなたの欲する一切《すべて》のものを與へませう
自分はいまこそ言はう
なんであんなにいそぐのだらう
どこまでゆかうとするのだらう
どこで此の道がつきるのだらう
此の生の一本みちがどこかでつきたら
人間はそこでどうなるだらう
おお此の道はどこまでも人間とともにつきないのではないか
谿間《たにま》をながれる泉のやうに
自分はいまこそ言はう
人生はのろさにあれ
のろのろと蝸牛《ででむし》のやうであれ
そし
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