ゆびさきの刺|疼《うづ》き
眞實
ひとりなり
山あざやかに
雪近し。


  印 象

むぎのはたけのおそろしさ……
むぎのはたけのおそろしさ
にほひはうれゆくゐんらく
ひつそりとかぜもなし
きけ、ふるびたるまひるのといきを
おもひなやみてびはしたたり
せつがいされたるきんのたいやう
あいはむぎほのひとつびとつに
さみしきかげをとりかこめり。


  持 戒

草木を
信念すれば
雪ふり
百足《むかで》ちぎれば
ゆび光り。


  光

かみのけに
ぞつくり麥穗
滴る額
からだ青空
ひとみに
ひばりの巣を發見《みつ》け。


  氣 稟

鴉は
木に眠り

豆は
莢の中

秋の日の
眞實

丘の畑
きんいろ。


  模 樣

かくぜん
めぢの外
秋澄み
方角
すでに定まり
大藍色天
電線うなる
電線目をつらぬき。


  銘 に

廢園の
一木一草
肉心
磁器
晶玉
天つひかりの手
せんまんの手
その手を
おびえし水に浸し
目あざやか。


  くれがた

くれがたのおそろしさ
くりやのすみの玉葱
ほのぐらきかをりに浸りて
青き芽をあげ
ものなべての罪は
ひき窓の針金をつたはる。

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