狂亂。鉤をめぐる人魚の唄。色彩のとどめを刺すべく古風な顫律《リヅム》はふかい所にめざめてゐる。靈と肉との表裏ある淡紅色《ときいろ》の窓のがらす[#「がらす」に傍点]にあるかなきかの疵を發見《みつ》けた。(重い頭腦《あたま》の上の水甕をいたはらねばならない)

わたしの騾馬は後方《うしろ》の丘の十字架に繋がれてゐる。そして懶《ものう》くこの日長を所在なさに糧も惜まず鳴いてゐる。


  樂 園

寂光さんさん
泥まみれ豚
ここにかしこに
蛇からみ
秋冴えて
わが瞳《め》の噴水
いちねん
山羊の角とがり。


  發 作

なにかながれる
めをとぢてみよ
おともなくながれるものを
わがふねもともにながれる。


  曼陀羅

このみ
きにうれ

ひねもす
へびにねらはる。

このみ
きんきらり。

いのちのき
かなし。


  かなしさに

かなしさに
なみだかき垂れ
一盞の濁酒ささげん。
秋の日の水晶薫り
餓ゑて知る道のとほきを
おん手の葦
おん足の泥まみれなる。


  岬

岬の光り
岬のしたにむらがる魚ら
岬にみち盡き
そら澄み
岬に立てる一本の指。


  十 月

銀魚はつらつ
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