もおよぎ出せ。かくれたる暗がりに泌み滲み、いのちの凧のうなりがする。歡樂は刹那。蛇は無限。しろがねの弦を斷ち、幸福の矢を折挫いてしくしくきゆぴと[#「きゆぴと」に傍点]が現代的に泣いてゐる。それはさて、わたしは憂愁のはてなき逕をたどり急がう。
おづおづとその瞳《め》をみひらくわたしの死んだ騾馬、わたしを乘せた騾馬――記憶。世界を失ふことだ。それが高貴で淫卑なさろめ[#「さろめ」に傍点]が接吻の場《シイン》となる。そぷらの[#「そぷらの」に傍点]で。すべてそぷらの[#「そぷらの」に傍点]で。殘忍なる蟋蟀は孕み、蝶は衰弱し、水仙はなぐさめなく、歸らぬ鳩は眩ゆきおもひをのみ殘し。
おお、欠伸《あくび》するのはせらぴむ[#「せらぴむ」に傍点]か。黎明が頬に觸れる。わたしのろくでもない計畫の意匠、その周圍をさ迷ふ美のざんげ。微睡の信仰個條《クリイド》。むかしに離れた黒い蛆蟲。鼻から口から眼から臍から這込むきりすと[#「きりすと」に傍点]。藝術の假面。そこで黄金色《きんいろ》に偶像が塗りかへられる。
まつてゐるのは誰。そしてわたしを呼びかへすのは。眼瞼《まぶた》のほとりを匍ふ幽靈のもの言はぬ
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