て、みんな一しよに抱《だ》きしめながら
「何《なん》てまあ可愛《かあい》んだろ」
まだ生きてゐる鱸
朝早《あさはや》く、磯《いそ》で投釣《なげづ》りをしてゐる人《ひと》がありました。なかなか掛《かゝ》らないので、もうやめよう、もうやめようとおもつてゐました。と一|尾《ぴき》大《おほ》きな奴《やつ》がかかりました。
鱸《すゞき》でした。
その人《ひと》のよろこびつたらありませんでした。急《いそ》いで、それをぶらさげて歸《かへ》らうと立《た》ちあがりました。
すると鱸《すゞき》が
「にいさん、私《わたし》を何處《どこ》へもつて行《い》くんです」
と聲《こゑ》をかけました。
まだ生《い》きてゐるのでした。
「えつ! お母《つか》あにさ。お母《つか》あは此頃《このごろ》、すこし病氣《びやうき》してゐるんだ」とは言《ゆ》つたものの、心《こゝろ》の中《なか》では「すまない、すまない」と手《て》をあはせるばかりでありました。
魚《さかな》は
「どうせ食《た》べられるなら、こんな孝行者《かうこうもの》の親《おや》の口《くち》にはいるのは幸福《しあはせ》といふもんだ」と、よろこんでそ
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