す。自分《じぶん》だけです。それ外《ほか》無《な》いのさ、ね」
「でも、もし母《かあ》ちやんが飛《と》べなくなつたら、僕《ぼく》、死《し》んでもいい、たすけてあげる」
「そうかい、ありがとう。だけどね、またその蒼々《あを/\》とした大《おほ》きな海《うみ》を無事《ぶじ》にわたり切《き》つて、陸《をか》からふりかへつてその海《うみ》を沁々《しみ/″\》眺《なが》める、あの氣持《きもち》つたら……あの時《とき》ばかりは何時《いつ》の間《ま》にかゐなくなつてゐる友達《ともだち》や親族《みうち》もわすれて、ほつとする。ああ、あの嬉《うれ》しさ……」
「はやく行《い》つて見《み》たいなあ」
「わたしもよ、ね、母《かあ》ちやん」
「ええ、ええ。誰《だれ》もおいては行《ゆ》きません。ひとり殘《のこ》らず行《ゆ》くのです。でもね、いいですか、それまでに大《おほ》きくそして立派《りつぱ》に育《そだ》つことですよ。壯健《たつしや》な體《からだ》と強《つよ》い翼《はね》! わかつて」
「ええ」
「ええ」
「ええ」
 と小《ちい》さい嘴《くち》が一|齊《せい》にこたへました。母燕《おやつばめ》はたまらなくなつ
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