き》をとほつて、あのいいぷうんとくる匂《にほ》ひを嗅《か》ぐと、まつたく理《り》も非《ひ》もなくなるんです。そしてそこへ飛《と》び込《こ》んでしまふんです。神樣《かみさま》、どうしてこんなに嚥《の》みたいんでせう。どうかして此《こ》の呑《の》みたい酒《さけ》をやめることは出來《でき》ないもんでせうか」
神樣《かみさま》はのんべえ[#「のんべえ」に傍点]の涙《なみだ》を御覧《ごらん》になりました。
「そうか。よくわかつた。俺《わし》はお前《まへ》がかわいさうでならない。唯《たゞ》、それだけだ」
「えツ、こんな紙屑《かみくづ》のやうな人間《にんげん》でも、かわいさうに想《おも》つてくださいますか」
「おお、そうおもはなくつてどうする」
「へえゝゝゝゝ」
よろこんだの、よろこばないのつて、のんべえ[#「のんべえ」に傍点]は轉《ころげ》るやうに、よろこんでその山《やま》から家《いへ》に驅《か》け戻《もど》りました。來《き》てみると嬶《かゝあ》も子《こ》どもも誰《だれ》もゐません。
お上《かみ》さんはお上《かみ》さんで、子《こ》ども達《たち》を引《ひ》きつれて御亭主《ごていしゆ》の立去《た
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