鼾《いびき》です。
 お上《かみ》さんも呆《あき》れて、だまつてしまふのが例《れい》でした。
 不思議《ふしぎ》なこともあるものです。それが今日《けふ》は、何《なに》をおもひだしたのか、目《め》が覺《さ》めると、めそめそ啜《すゝ》り泣《な》きをしながら、何處《どこ》へか出《で》て行《い》つてしまひました。
 やがてのんべえ[#「のんべえ」に傍点]は樹深《こぶか》い裏山《うらやま》のお宮《みや》の前《まへ》にあらはれました。[#「あらはれました。」は底本では「あらはれました」と誤記]そして地《ぢ》べたに跪《ひざまづ》いて
「神樣《かみさま》、どうかお聽《き》きになつてください。私《わたし》はあなたもよく御承知《ごしやうち》ののんべえ[#「のんべえ」に傍点]です。私《わたし》がのんべえ[#「のんべえ」に傍点]なために家《いへ》の生計《くらし》は火《ひ》の車《くるま》です。嬶《かゝあ》や子《こ》ども等《ら》のひきづツてゐるぼろ[#「ぼろ」に傍点]をみると、もうやめよう、もうやめよう[#「もうやめよう」は底本では「もうやう」と誤記]とは思《おも》ふんですが、またすぐ酒屋《さかや》の店先《みせさ
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