んな生命《いのち》の瀬戸際《せとぎは》で」
「はい。そればかりではありません。世界《せかい》には私《わたし》どもの知《し》らないことが數限《かずかぎ》りなくあります。――小《ちひ》さなところで獨《ひと》り威張《ゐば》つてゐることの」
「え」
「愚《おろか》さがしみじみ、はじめて解《わか》りました」


 どうしてのんべえ[#「のんべえ」に傍点]は其酒を止めたか

 のんべえ[#「のんべえ」に傍点]ものんべえ[#「のんべえ」に傍点]も怖《おそろ》しいのんべえ[#「のんべえ」に傍点]がありました。その家《いへ》では、それがために一|年《ねん》の三百六十五|日《にち》を、三百|日《にち》ぐらゐは必《かなら》ず喧嘩《けんくわ》で潰《つぶ》すことになつてゐました。
 けふもけふとて、ぐでんぐでんに御亭主《ごていしゆ》が醉拂《よつぱら》へてかへつて來《く》ると、お上《かみ》さんが山狼《やまいぬ》のやうな顏《つら》をして吠《ほ》え立《た》てました。なんとゆつても、まるで屍骸《しんだもの》のやうに、ひツくりかへつてはもう正體《しやうたい》も何《なに》もありません。梁《はり》の煤《すゝ》もまひだすやうな
前へ 次へ
全68ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング