》の中《なか》で、胸毛《むなげ》にふかく頸《くび》をうづめた母燕《おやつばめ》が眠《ねむ》るでもなく目《め》をつぶつてじつとしてゐると雛《ひな》の一つがたづねました。
「母《かあ》ちやん、何《なに》してるの。え、どうしたの」
 と、しんぱいして。
「どうもしやしません。母《かあ》ちやんはね。いま考《かんが》え事《ごと》をしてゐたの」
 すると、他《ほか》の雛《ひな》が
「かんがえごとつて何《なあに》」
「それはね……さあ、何《なん》と言《ゆ》つたらいいでせう。あんた達《たち》がはやく大《おほ》きくなると、此《こ》の國《くに》にさむいさむい風《かぜ》が吹《ふ》いたり、雪《ゆき》がふつたりしないうちに遠《とほ》い遠《とほ》い故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるのよ。[#「かえるのよ。」は底本では「かえるのよ」と誤記]そして遠《とほ》い遠《とほ》いその故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるには、それはそれは長《なが》い旅《たび》をしなければならないの。それがね、森《もり》や林《はやし》のあるところならよいが、疲《つか》れても翼《はね》をやすめることもできず、お腹《なか》が空《す》いても何《
前へ 次へ
全68ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング