《なにふじいう》なく暮《く》らして、住《す》んでをりました。
あるとき木菟《みゝずく》が水《みづ》をのみにきて、その蛙《かへる》の一ぴきに逢《あ》ひました。
「やあ、しばらくだね、蛙君《かへるくん》」
「木菟《みゝづく》さんか、何處《どこ》へ行《い》つてゐたんです」
「あんまり一つ所《どころ》も飽《あ》きたんで、あれから方々《はう/″\》、飛《と》び廻《まは》つてきたよ」
「へえ」
「何《なに》かおもしろい話《はなし》でもないかい」
「それは俺《わし》の方《ほう》からいふ言葉《ことば》でさあ。こうして此處《こゝ》で生《うま》れて此處《こゝ》でまた死《し》ぬ俺等《わしら》です。一つ旅《たび》の土産《みやげ》はなしでもきかせてくれませんか」
「とりわけてこれと云《い》ふ……何處《どこ》もみんな同《おんな》じですがね。……だが、あの星《ほし》の國《くに》へあそびに行《い》つて、宵《よひ》のうつくしい明星樣《めうじやうさま》にもてなされたのだけは、おらが一|生《しやう》一|代《だい》の光榮《くわうえい》さ」
と、蛙《かへる》がそれを遮《さへぎ》つて
「俺《わし》がいくら世間見《せけんみ》ず
前へ
次へ
全68ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング