やう》でした。


 泥棒

 泥棒《どろぼう》が監獄《かんごく》をやぶつて逃《に》げました。月《つき》の光《ひかり》をたよりにして、山《やま》の山《やま》の山奥《やまおく》の、やつと深《ふか》い谿間《たにま》にかくれました。普通《なみ》、大抵《たいてい》の骨折《ほねを》りではありませんでした。そこで綿《わた》のやうに疲勞《つか》れて眠《ねむ》りにつきました。草《くさ》を敷《し》き、石《いし》を枕《まくら》にして、そしてぐつすりと。
 朝《あさ》。
 神樣《かみさま》がそれを御覧《ごらん》になりました。これは、なんといふ瘻《やつ》れた寢顏《ねがほ》だらう。
「おお、わが子《こ》よ」と仰《おほ》せられて、人間《にんげん》どもの知《し》らない聖《きよ》い尊《たつと》いなみだをほろりと落《おと》されました。
 それをみてゐた朝起《あさお》きのひたき[#「ひたき」に傍点]も、おもはず貰《もら》ひ泣《な》きをいたしました。

[#底本には、本文から離れた位置に「もつて。」と誤植]


 星の國

 山《やま》の中《なか》に古池《ふるいけ》がありました。そこに蛙《かへる》の一|族《ぞく》が何不自由
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