まりました。豚《ぶた》は、はつとわれ[#「われ」に傍点]にかへつてみあげました。そこには縣立《けんりつ》畜獸《ちくじう》屠殺所《とさつじよ》といふ大《おほ》きな看板《かんばん》が掛《かゝ》かつてゐました。
虻の一生
かんかん日《ひ》の照《て》る炎天《えんてん》につツ立《た》つて、牛《うし》がなにか考《かんが》えごとをしてゐました。虻《あぶ》がどこからかとんできて、ぶんぶんその周圍《まはり》をめぐつて騷《さわ》いでゐました。
あまり喧《やかま》しいので、さすがに忍耐《にんたい》強《づよ》い牛《うし》も我慢《がまん》がし切《き》れなくなつたと見《み》え
「うるせえ、ちと彼方《あつち》へ行《い》つててくれ」と言《い》ひました。虻《あぶ》のやんちやん、そんなことは耳《みゝ》にもいれず、ますます蠅《はひ》などまで呼集《よびあつ》めて飛《と》び廻《まは》つてゐました。
「うるせえツたら」
「え」
「ちつと何處《どこ》へか行《い》つててくれよ」
「何《なん》で」
「うるせえから」
「はい、はい」
けれど仲々《なか/\》、行《ゆ》かうとはしません。
「はやく行《い》げ」
「行《ゆ》きます
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