》ると指《ゆびさ》して、逢《あ》ふもの毎《ごと》に笑《わら》ふのです。
「おや、耳《みゝ》のない兎《うさぎ》」
「何《なん》といふ不具《かたわ》でせうね」
 もうお祭《まつ》りどころではありません。いそいで、泣《な》きながら山《やま》へ歸《かへ》りました。
 山《やま》へ歸《かへ》ると、親兄弟《おやきやうだい》は勿論《もちろん》、友《とも》だちも驚《おどろ》いてしまひました。そしてかわいさうに此《こ》の兎《うさぎ》は一|生《しやう》の笑《わら》はれ者《もの》となりました。


 運ばれる豚

 いつも物置《ものおき》の後《うしろ》の、汚《きたな》い小舎《こや》の中《なか》にばかりゐた豚《ぶた》が、或《あ》る日《ひ》、荷車《くるま》にのせられました。
 此《こ》の豚《ぶた》は夢想家《むさうか》でした。
「なんと言《い》ふことだ。天氣《てんき》は上等《じやうとう》、此《こ》のとほりの青空《あをぞら》だ。かうして自分《じぶん》は荷車《にぐるま》にのせられ、その上《うへ》にこれはまた他《ほか》の獸等《けものら》に意地《いぢ》められないやうに、用意周到《よういしうとう》なこの駕籠《かご》。さすが
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