ゃ》を朝《あさ》から晩《ばん》まで輓《ひ》くために、私《わたし》の親《おや》は私《わたし》をうんだのでもなからうに。自分《じぶん》の子《こ》がこんな目《め》に遇《あ》つてゐるのをみたら、人間《にんげん》ならなんと云《い》ふだらう」
 馬《うま》はこのまんま、消《き》えるやうに死《し》にたいと思《おも》ひました。死《し》んで、そして何處《どこ》かで、びつくりして自分《じぶん》に泣《な》いてわびる無情《むじやう》な主人《しゅじん》がみてやりたいと思《おも》ひました。
 けれど直《す》ぐまた思《おも》ひなほしました。
「お互《たがひ》に、明日《あす》の生命《いのち》もしれない、はかない生《い》き物《もの》なんだ。何《なん》でも出來《でき》るうちに爲《す》る方《はう》がいいし、また、やらせることだ」と。


 蚊

 蚊《か》が一ぴきある晩《ばん》、蚊帳《かや》の中《なか》にまぐれこみました。みんな寢靜《ねしづ》まると
「どうだい、これは、自分《じぶん》はまあ何《なん》といふ幸福者《しあはせもの》だらう。こんやは、それこそ思《おも》ふ存分《ぞんぶん》、腹《はら》一|杯《ぱい》うまい生血《いきち
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