#「けち」に傍点]な風《かぜ》だらう。吹《ふ》くなら吹《ふ》くらしくふけばいいんだ。此《こ》の暑《あつ》いのに。みてくんな、此《こ》の汗《あせ》を。どうだいまるで流《なが》れるやうだ」
 風鈴《ふうりん》がねぼけたやうにちりりん[#「ちりりん」に傍点]と、そのとき搖《ゆ》れました。
「ほんとにねえ。これぢや、いい風《かぜ》ですとも言《ゆ》はれませんよ。まつたく」
 ちらとそれをきいて風《かぜ》は憤《むつ》としました。「此《こ》の意氣地《いくぢ》なしども! そんなら一昨年《おととし》の二百十|日《か》のやうに、また一と泡《あわ》吹《ふ》かしてくれやうか」と怒鳴《どな》りつけやうとは思《おも》つたが、何《なに》をいふにも相手《あひて》はたか[#「たか」に傍点]のしれた人間《にんげん》だとおもひ直《なほ》して、だまつて大股《おほまた》に、あとをも見《み》ず、廣々《ひろ/″\》とした野山《のやま》の方《はう》へ行《い》つてしまひました。


 馬

 こげつくやうな熱《あつ》い日《ひ》でした。
 村《むら》の酒屋《さかや》の店前《みせさき》までくると、馬方《うまかた》は馬《うま》をとめました。
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