あつ》くなつて來《き》たね」
こちらで
「ええ。そろそろとお互《たがひ》の生命《いのち》もさきが短《みじか》くなるばかりさ」
「何《なに》つ! けふも誰《だれ》か殺《や》られたつて」
どこかで、鼻唄《はなうた》をうたつてゐる者《もの》があります。そうかと思《おも》ふと「誰《だれ》なの、そこでしくしく泣《な》いてゐるのは」
「あんまりくよくよするもんでねえだ」
「ふむ。べら棒《ぼう》め」
「南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》。南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》」
蟹
子蟹《こがに》の這《は》つてゐるのをみてゐた親蟹《おやがに》は苦《にが》い顏《かほ》をして言《い》ひました。
「それはまあ、何《なん》てあるき方《かた》なんだい。みつともない」
「どんなにあるくの」
「眞直《まつすぐ》にさ」
從順《すなほ》な子蟹《こがに》はおしへられたやうに試《こゝろ》みました。けれどどうしても駄目《だめ》でした。で
「あるいてみせておくれよ」
「よし、よし。かうあるくもんだ」
親蟹《おやがに》は歩《ある》きだしました。すると、こんどは子蟹《こがに》が腹《はら》をかかえて噴出《ふきだ》しました。
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