「え、おぢさん、これが早《はや》いんですつて。わたしはもう百《ひゃく》ぺんも歌《うた》ひましたよ。」[#底本では【」】が欠落]
 すこし憤《むつ》とした百姓《ひゃくせう》
「それがどうしたと云《ゆ》ふんだ」
「何《なん》でもありませんよ。たゞね、私《わたし》はおさきへ失禮《しつれい》して、これからお茶《ちや》でも嚥《の》まうとしてるんです」


 瓜畑のこと

「しつ! そら來《き》た」
 いままで、ごろごろとのんきにころがつて罪《つみ》のない世間話《せけんばなし》をしてゐた瓜《うり》が、一|齊《せい》にぴたりとその話《はなし》をやめて、息《いき》を殺《ころ》しました。みんな、そして眠《ねむ》つた眞擬《ふり》をしてゐました。
 お媼《ばあ》さんは、今日《けふ》もうれしさうに畑《はたけ》を見廻《みまは》して甘味《うま》さうに熟《じゆく》した大《おほ》きい奴《やつ》を一つ、庖丁《ほうてう》でちよん切《ぎ》り、さて、さも大事《だいじ》さうにそれを抱《かゝ》えてかえつて行《ゆ》きました。すると、また話《はなし》がひそひそと遠近《をちこち》ではじまりました。
 彼方《あちら》で
「なかなか暑《
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