《なか》では赤《あか》い舌《した》をぺろりとだして
「こいつあ、人間《にんげん》のある者《もの》によく似《に》てけつかる。それも善《い》い事《こと》ならいいが、ろくでもねえところなんだから、堪《たま》らねえ」


 鴉と田螺

 麗《うらら》かな春《はる》の日永《ひなが》を、穴《あな》から這《は》ひだした田螺《たにし》がたんぼで晝寢《ひるね》をしてゐました。それを鴉《からす》がみつけてやつて來《き》ました。海岸《かいがん》で、鳶《とび》と喧嘩《けんくわ》をして負《ま》けたくやしさ、くやしまぎれに物《もの》をもゆはず、飛《と》びをりてきて、いきなり強《つよ》くこつんと一つ突衝《つゝ》きました。
「あ痛《いた》!」
 こつん、こつん、こつんとつゞけざまの慘酷《むごたら》しさ。
「いたいよう。ごめんなさいよう」とあげる田螺《たにし》の悲鳴《ひめい》。それを藪《やぶ》にゐた四十|雀《から》がききつけて
「まあ兄《にい》さん、何《なに》をするんです。そんな酷《ひど》い目《め》にあはせるなんて、われもひとも生きもんだ[#「われもひとも生きもんだ」に傍点]、つてこともあるじやありませんか」
 すると
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