い。寒《さむ》ければ、また寒《さむ》いと。
 小賢《こざか》しい鴉《からす》はそれをよく知《し》つてゐました。それだから、その頭《あたま》や肩《かた》の上《うへ》で、ちよつと翼《はね》を休《やす》めたり。或《あるひ》は一|夜《よ》の宿《やど》をたのまうとでもすると、まづ
「何《なん》て天氣《てんき》でせう。かう毎日々々《まいにち/\/\》、打續《ぶつつゞ》けのお照《て》りと來《き》ちやなんぼなんでもたまつたもんぢやありませんやねえ」
 また、ちやうど雨《あめ》でも降《ふ》つてゐるなら
「困《こま》つた雨《あめ》じやありませんか。これじや膓《はらわた》の中《なか》まで、すつかり、びしよ腐《ぐさ》れですよ」
 老木《らうぼく》はそれを聽《き》くと
「そうだとも、そうだとも。こりや一つ何《なん》とかせにあなるめえ」その癖《くせ》、何《なに》一つ爲《し》たことはないのです。唯《たゞ》、喋舌《しやべ》るばかりです。爲《し》たくも出來《でき》ないんでせう。もう根《ね》が深《ふか》くはりすぎてゐて身動《みうご》きもならないやうになつてしまつてゐるのですもの。
 鴉《からす》は、けれど心《こゝろ》の中
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