お上《かみ》さんが河端《かわばた》で芋《いも》を洗《あら》つてをりました。そこを通《とほ》りかけた乞食《こじき》のやうな坊《ぼう》さんがその芋《いも》をみて
「それを十ばかり施興《ほどこ》してください」と頼《たの》みました。「私《わたし》はお腹《なか》が空《す》いてゐるのだ」
お上《かみ》さんはちらと見上《みあ》げました。けれど腰《こし》も立《た》てませんでした。そして
「駄目々々《だめ/″\/″\》、これは食《た》べられません。石芋《いしいも》です」と、くれるのがいやさに、そう言《ゆ》つて嘘《うそ》を吐《つ》きました。
「はあ、さうですか」
坊《ぼう》さんは強《し》ひてとも言《ゆ》はず、それなり何處《どこ》へか掻《か》き消《け》すやうにゐなくなりました。芋《いも》がすつかり洗《あら》へたから、それをお上《かみ》さんは家《いへ》にもち歸《かへ》り、そしてお鍋《なべ》に入《い》れて煮《に》ました。しばらくして、もう煮《に》えたらうと一つ取出《とりだ》して囓《かぢ》つてみました。固《かた》い。まるで石《いし》のやうです。も少《すこ》したつて、また取出《とりだ》してみました。矢張《やつぱ
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