つけて、造物《つくり》主《ぬし》の神樣《かみさま》をうらんで男泣《をとこな》きに泣《な》きました。


 機織蟲

 蟲《むし》の中《なか》でもばつた[#「ばつた」に傍点]は賢《かしこ》い蟲《むし》でした。この頃《ごろ》は、日《ひ》がな一|日《にち》月《つき》のよい晩《ばん》などは、その月《つき》や星《ほし》のひかりをたよりに夜露《よつゆ》のとつぷりをりる夜闌《よふけ》まで、母娘《おやこ》でせつせと機《はた》を織《を》つてゐました。
 母《はゝ》は親《おや》だけに、叮嚀《ていねい》に
「ギーイコ、バツタリ」と織《を》つてをりますが、性急《せつかち》な娘《むすめ》つ子《こ》は、
「ギツチヨン。ギツチヨン。ギ、ギツチヨン」とそれはそれは大《たい》へん忙《せわ》しそうなのです。
 野《の》は桔梗《ききやう》、女郎花《をみなへし》のさきみだれた美《うつく》しい世界《せかい》です。その草《くさ》の葉《は》つぱのかげで
「ギーイコ、バツタリ」
「ギツチヨン。ギツチヨン」
 ある時《とき》、そこへ森《もり》の方《はう》から、とぼとぼと腹這《はらば》ふばかりに一ぴきの※[#「※」は「虫へん+車」、32
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