》まえました。
あはや、嘴《くちばし》が近《ちかづ》かうとすると
羽蟲《はむし》が
「ちよつと待《ま》つて」と言《い》ひました。
「何《なに》か用《よう》かえ」
「ええ」
「どんな用《よう》だえ。聽《き》いてやるがら言《ゆ》つて見《み》たらよからう」
羽蟲《はむし》はくるしい爪《つめ》の下《した》で、いひ澁《しぶ》つてゐましたが思《おも》ひ切《き》つて[#「切つて」は底本では「切つ」と誤記]
「あのう……世間《せけん》では、あなたのことを愛《あい》の天使《みつかひ》だの、平和《へいわ》の表徴《シンボル》だのつて言《ゆ》つてゐるんです」
「そして」
「それだのにあなたは今《いま》、何《なん》の罪《つみ》もない私《わたし》の生命《いのち》を取《と》らうとしてゐる」
「それから」
「それは無法《むほふ》といふものです」
「なるほど、或《あるひ》はそうかも知《し》れない。けれど自分《じぶん》は飢《う》えてゐる。それだから食《た》べる。これは自然《しぜん》だ、また權利《けんり》だ」
「えつ!」
「何《なに》もそんなにおどろくことはない。それが萬物《ばんぶつ》の生《い》きてゐる證據《しやうこ
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