かほ》をながめたり、からだ中《ぢう》の毛《け》を一|本《ぽん》一|本《ぽん》、綺麗《きれい》に草《くさ》で撫《な》でつけたり、稍《やゝ》、半日《はんにち》もかかりました。
「何《なん》てまあ、いい毛《け》だらう」と、それを第《だい》一に見《み》つけた猫《ねこ》が羨《うらや》ましさうに、まづ賞《ほ》めました。犬《いぬ》も狐《きつね》も野鼠《のねづみ》も、みな
「ほんとにねえ」と同意《どうい》しました。
 兎《うさぎ》はうれしくつてたまりませんでした。すると猫《ねこ》がまた
「けれど、どうも耳《みゝ》が長過《ながす》ぎるね」と、つくづくみてゐて批評《ひひやう》しました。
 それをきくと
「ほんとに、そう言《ゆ》はれてみると、そうだ」一|同《どう》は口《くち》を揃《そろ》えていひました。
 兎《うさぎ》は、はつと思《おも》ひました。そしてみんなの耳《みゝ》をみました。それから自分《じぶん》のを手《て》で觸《さは》つてみました。なるほど長《なが》い!
 そこで早速《さつそく》、理髪店《とこや》に行《い》つてその耳《みゝ》を根元《ねもと》からぷつりと切《き》つて貰《もら》ひました。おもてへ出《で》ると指《ゆびさ》して、逢《あ》ふもの毎《ごと》に笑《わら》ふのです。
「おや、耳《みゝ》のない兎《うさぎ》」
「何《なん》といふ不具《かたわ》でせうね」
 もうお祭《まつ》りどころではありません。いそいで、泣《な》きながら山《やま》へ歸《かへ》りました。
 山《やま》へ歸《かへ》ると、親兄弟《おやきやうだい》は勿論《もちろん》、友《とも》だちも驚《おどろ》いてしまひました。そしてかわいさうに此《こ》の兎《うさぎ》は一|生《しやう》の笑《わら》はれ者《もの》となりました。


 運ばれる豚

 いつも物置《ものおき》の後《うしろ》の、汚《きたな》い小舎《こや》の中《なか》にばかりゐた豚《ぶた》が、或《あ》る日《ひ》、荷車《くるま》にのせられました。
 此《こ》の豚《ぶた》は夢想家《むさうか》でした。
「なんと言《い》ふことだ。天氣《てんき》は上等《じやうとう》、此《こ》のとほりの青空《あをぞら》だ。かうして自分《じぶん》は荷車《にぐるま》にのせられ、その上《うへ》にこれはまた他《ほか》の獸等《けものら》に意地《いぢ》められないやうに、用意周到《よういしうとう》なこの駕籠《かご》。さすがは人間《にんげん》だ、すこし窮屈《きうくつ》は窮屈《きうくつ》だが、それも風流《ふうりゆう》でおもしろいや。や、海《うみ》がみえるぞ、や、や、船《ふね》だ船《ふね》だ。なんといふことだ。子《こ》ども等《ら》もつれてくるんだつけな。どんなによろこぶだらう、お、お、電車《でんしや》、活動寫眞《くわつどう》の樂隊《がくたい》。とうとう町《まち》へ來《き》たんだな。えツ、ほんとに嬶《かゝあ》や子《こ》ども等《ら》をつれてくるんだつたに。あれ、向《むか》ふにみへるのは何《なん》だ。王樣《わうさま》の御殿《ごてん》かもしれねえ、自分《じぶん》はあそこへ行《ゆ》くのだらう。きつと王樣《わうさま》が自分《じぶん》をお召《め》しになつたんだ。お目《め》に懸《かゝ》つたら何《なに》を第《だい》一に言《ゆ》はう。そうだ。自分《じぶん》の主人《しゆじん》は慾張《よくばり》で、ろくなものを自分《じぶん》にも自分《じぶん》の子《こ》ども等《ら》にも食《た》べさせません、よく王樣《わうさま》の御威嚴《ごゐげん》をもつて叱《しか》つて頂《いたゞ》きたい。と、それから次《つぎ》には……」
 かたりと荷車《にぐるま》がとまりました。豚《ぶた》は、はつとわれ[#「われ」に傍点]にかへつてみあげました。そこには縣立《けんりつ》畜獸《ちくじう》屠殺所《とさつじよ》といふ大《おほ》きな看板《かんばん》が掛《かゝ》かつてゐました。


 虻の一生

 かんかん日《ひ》の照《て》る炎天《えんてん》につツ立《た》つて、牛《うし》がなにか考《かんが》えごとをしてゐました。虻《あぶ》がどこからかとんできて、ぶんぶんその周圍《まはり》をめぐつて騷《さわ》いでゐました。
 あまり喧《やかま》しいので、さすがに忍耐《にんたい》強《づよ》い牛《うし》も我慢《がまん》がし切《き》れなくなつたと見《み》え
「うるせえ、ちと彼方《あつち》へ行《い》つててくれ」と言《い》ひました。虻《あぶ》のやんちやん、そんなことは耳《みゝ》にもいれず、ますます蠅《はひ》などまで呼集《よびあつ》めて飛《と》び廻《まは》つてゐました。
「うるせえツたら」
「え」
「ちつと何處《どこ》へか行《い》つててくれよ」
「何《なん》で」
「うるせえから」
「はい、はい」
 けれど仲々《なか/\》、行《ゆ》かうとはしません。
「はやく行《い》げ」
「行《ゆ》きます
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