ないい翼《はね》をつけてくんろよ」
親《おや》あひる[#「あひる」に傍点]はそつぽを向《む》いて聞《きこ》えないふりをしてゐたが、眼《め》には涙《なみだ》が一ぱいでした。
――「都會と田園」より――
雜魚の祈り
ながらく旱《ひでり》が續《つゞ》いたので、沼《ぬま》の水《みづ》が涸《か》れさうになつてきました。雜魚《ざこ》どもは心配《しんぱい》して山《やま》の神樣《かみさま》に、雨《あめ》のふるまでの斷食《だんじき》をちかつて、熱心《ねつしん》に祈《いの》りました。
神樣《かみさま》はその祈《いの》りをきかれたのか。雨《あめ》がふりました。
沼《ぬま》の干《ひ》てしまはないうちに雨《あめ》はふりましたが、その雨《あめ》のふらないうちに雜魚《ざこ》はみんな餓死《がし》しました。
森の老木
お宮《みや》の森《もり》にはたくさんの老木《らうぼく》がありました。大方《おほかた》それは松《まつ》でした。山《やま》の上《うへ》の高《たか》みからあたりを睨望《みをろ》して、そしていつも何《なん》とかかとか口喧《くちやかま》しく言《い》つてゐました。暑《あつ》ければ、暑《あつ》い。寒《さむ》ければ、また寒《さむ》いと。
小賢《こざか》しい鴉《からす》はそれをよく知《し》つてゐました。それだから、その頭《あたま》や肩《かた》の上《うへ》で、ちよつと翼《はね》を休《やす》めたり。或《あるひ》は一|夜《よ》の宿《やど》をたのまうとでもすると、まづ
「何《なん》て天氣《てんき》でせう。かう毎日々々《まいにち/\/\》、打續《ぶつつゞ》けのお照《て》りと來《き》ちやなんぼなんでもたまつたもんぢやありませんやねえ」
また、ちやうど雨《あめ》でも降《ふ》つてゐるなら
「困《こま》つた雨《あめ》じやありませんか。これじや膓《はらわた》の中《なか》まで、すつかり、びしよ腐《ぐさ》れですよ」
老木《らうぼく》はそれを聽《き》くと
「そうだとも、そうだとも。こりや一つ何《なん》とかせにあなるめえ」その癖《くせ》、何《なに》一つ爲《し》たことはないのです。唯《たゞ》、喋舌《しやべ》るばかりです。爲《し》たくも出來《でき》ないんでせう。もう根《ね》が深《ふか》くはりすぎてゐて身動《みうご》きもならないやうになつてしまつてゐるのですもの。
鴉《からす》は、けれど心《こゝろ》の中《なか》では赤《あか》い舌《した》をぺろりとだして
「こいつあ、人間《にんげん》のある者《もの》によく似《に》てけつかる。それも善《い》い事《こと》ならいいが、ろくでもねえところなんだから、堪《たま》らねえ」
鴉と田螺
麗《うらら》かな春《はる》の日永《ひなが》を、穴《あな》から這《は》ひだした田螺《たにし》がたんぼで晝寢《ひるね》をしてゐました。それを鴉《からす》がみつけてやつて來《き》ました。海岸《かいがん》で、鳶《とび》と喧嘩《けんくわ》をして負《ま》けたくやしさ、くやしまぎれに物《もの》をもゆはず、飛《と》びをりてきて、いきなり強《つよ》くこつんと一つ突衝《つゝ》きました。
「あ痛《いた》!」
こつん、こつん、こつんとつゞけざまの慘酷《むごたら》しさ。
「いたいよう。ごめんなさいよう」とあげる田螺《たにし》の悲鳴《ひめい》。それを藪《やぶ》にゐた四十|雀《から》がききつけて
「まあ兄《にい》さん、何《なに》をするんです。そんな酷《ひど》い目《め》にあはせるなんて、われもひとも生きもんだ[#「われもひとも生きもんだ」に傍点]、つてこともあるじやありませんか」
すると鴉《からす》が
「なんだと、えツ、やかましいわい。此《こ》のおしやべり小僧《こぞう》め!」
「でもね、われもひとも生きもんだ[#「われもひとも生きもんだ」に傍点]、つてことが……」
「ええ、うるせえ」と云《い》ふよりはやく飛《と》び掛《かゝ》りました。けれど四十|雀《から》はもうどこにも見《み》えません。ちええ。そればかりか、折角《せつかく》のごちさう[#「ごちさう」に傍点]はとみれば、その間《あひだ》に、これはまんまと、穴《あな》へ逃《に》げこんでしまつてゐるのです。そして穴《あな》の口《くち》から頭《あたま》をだして
「おい、ここだよ」
仲善し
馬方《うまかた》と馬方《うまかた》が喧嘩《けんくわ》をはじめました。砂《すな》ツぽこりの大道《だいどう》の地《ぢ》べたで、上《うへ》になつたり下《した》になつたり、まるであんこ[#「あんこ」に傍点]の中《なか》の團子《だんご》のやうに。そして双方《そうほう》とも、泥《どろ》だらけになり、やがて血《ち》までがだらだら流《なが》れ出《だ》しました。
一人《ひとり》の方《ほう》の馬《うま》が「またはじまりましたね」と言《い》ふと
他
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