》り固《かた》い。いくら煮《に》ても石《いし》のやうで食《た》べられません。お鍋《なべ》から出《だ》して、こんどは火《ひ》で燒《や》いてみました。不相變《あいかはらず》です。いよいよ固《かた》くなるばかりでした。
 遂々《とう/\》、お上《かみ》さんは腹《はら》を立《た》てて、それをすつかり裏《うら》の竹藪《たけやぶ》にすてました。
 すると芋《いも》が
「ざまあみやがれ、慾張《よくばり》めが。俺《おい》らが怒《おこ》つて固《かた》くなると、こんなもんだ」
 その翌日《あくるひ》、こんな噂《うはさ》がぱつと立《た》ちました。昨日《きのふ》の乞食《こじき》のやうなあの坊《ぼう》さんは、あれは今《いま》、生佛《いきぼとけ》といはれてゐるお上人樣《しやうにんさま》だと。
 お上《かみ》さんはぶつたまげてしまひました。けれど「あんなものをあげないで、よかつた」とおもひました。そして裏《うら》の竹藪《たけやぶ》にでてみますと、捨《す》てられたその芋《いも》は青々《あを/\》と芽をふいてゐるではありませんか。


 おやこ

 馬《うま》の母仔《おやこ》が百姓男《ひやくせうをとこ》にひかれて町《まち》へでかけました。母馬《おやうま》は大《おほ》きな荷物《にもつ》をせをつてゐました。
「かあちやん、何處《どこ》さ行《い》ぐの」
「町《まち》へさ」
「なんに行《い》ぐの」
「此《こ》の荷物《にもつ》をもつてよ」
「町《まち》つて、どこ」
「いま行《ゆ》けばわかるがね。おとなしくするんですよ。え」
 やがて町《まち》につきました。仔馬《こうま》は賑《にぎや》かなのにはじめはびつくりしてゐましたが、何《なに》をみても珍《めづら》しい物《もの》ばかりなので、うれしくつてたまりませんでした。
「かあちやん、あれは何《なに》。あのぶうぶうつて驅《か》けて來《く》るのは」[#底本では【」】が欠落]
「あれは自働車《じどうしや》つて言《い》ふものよ」
「そんなら、あれは。そらそこの家《いへ》の軒《のき》にぶら下《さが》つてゐるの」
「あれかい、賣藥《くすり》の看板《かんばん》さ」
「あれは。あのお山《やま》のやうな屋根《やね》は」
「お寺《てら》」
「あのがたがたしてゐる音《をと》は」
「米屋《こめや》で米《こめ》を搗《つ》いてるのさ。機械《きかい》の音《をと》だよ」
「そんなら、あれは……」
「もう知《し》らない。笑《わら》われるから、はやくお出《い》で」
「あああ、あんなものが來《き》た、黒《くれ》え煙《けむ》をふきだして……」
「よ、そらまた」
 母馬《おやうま》は煩《うるさ》さにがつかりして歸路《きろ》につきました。町《まち》はづれまでくると、仔馬《こうま》は急《きふ》に歩《ある》きだしました。はやく家《いへ》へかへつてお乳《ちゝ》をねだらうとおもつて。
「早《はや》くさ、かあちやん。かあちやん、つてば。ぐずぐず道草《みちくさ》ばかり食《た》べてゐて」
けれど憐《あは》れな母馬《おやうま》はもう酷《ひど》く疲《つか》れてゐるのでした。
 月《つき》がでました。
 ほろゑひきげんの百姓男《ひやくせうをとこ》、今《いま》はすつかり善人《ぜんにん》になつて、叱言《こごと》を一つ言《い》ひません。
「あれ、あれ、お家《うち》の灯《あかり》がみへる。もうすぐだよ。母《かあ》ちやん」


 木と木

 老木《らうぼく》
「こんなに年老《としよ》るまで、自分《じぶん》は此《こ》の梢《こづゑ》で、どんなにお前のために雨《あめ》や風《かぜ》をふせぎ、それと戰《たゝか》つたか知《し》れない。そしてお前《まへ》は成長《せいちやう》したんだ」
 若《わか》い木《き》
「それがいまでは唯《たゞ》、日光《につくわう》を遮《さえぎ》るばかりなんだから、やりきれない」


 家鴨の子

 家鴨《あひる》の子《こ》が田圃《たんぼ》であそんでゐると、そこをとほりかかつた雁《がん》が
「おうい、おいらと行《い》がねえか」
「どこへさ」
「む、どこつて、おいらの故郷《こきやう》へよ。おもしろいことが澤山《たんと》あるぜ。それからお美味《いし》いものも――」
「ほんとかえ」
「ほんとだとも」
「そんならつれていつておくれ」
「いいとも、けれど飛《と》べるか」
 家鴨《あひる》に天空《そら》がどうして飛《と》べませう。それども一生懸命《いつしやうけんめい》とびあがらうとして飛《と》んでみたが、どうしても駄目《だめ》なので泣《な》きだし、泣《な》きながら小舎《こや》にかへりました。
 雁《がん》はわらつて行《い》つてしまひました。
 小舎《こや》に歸《かへ》つてからもなほ、大聲《おほごゑ》で泣《な》きながら「おつかあ、おいらは何《なん》で、あの雁《がん》のやうに飛《と》べねえだ。おいらにもあん
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