》さ」
口喧嘩
南瓜《かぼちや》と甜瓜《まくはうり》と、おなじ畑《はたけ》にそだちました。種子《たね》を蒔《ま》かれるのも一しよでした。それでゐて大《たい》へん仲《なか》が惡《わる》かつたのです。
おたがひに日《ひ》に々々|大《おほ》きく、いまは人間《にんげん》の眼《め》をひくほどになりました。
或《あ》る日《ひ》、おてんば娘《むすめ》の甜瓜《まくはうり》が、かぼちや[#「かぼちや」に傍点]に毒舌《どくぐち》を吐《つ》きました。
「よお。おむかうの菊石《あばた》顏《づら》の若《わか》だんな。おほゝゝゝ。なにをそんなにお欝《ふさ》ぎなの、大抵《たいてい》で諦《あきら》めなさいよう。いくらかんがえたつて、みつともない。第《だい》一そのお面《めん》ぢやはじまらないんだから」
それをきいたかぼちや[#「かぼちや」に傍点]の怒《をこ》つたの怒《をこ》らないのつて、石《いし》のやうな拳固《げんこ》をふりあげて飛《と》び懸《かか》らうとしましたが、蔓《つる》が足《あし》にひつ絡《から》まつてゐて動《うご》かれない。くやしさに鬼《をに》のやうな顏《かほ》がいよいよ鬼《をに》のやうに醜《みにく》く、まつ赤《か》になりました。ぶるぶると身震《みぶる》ひしながら「うむむ、うむむ」と何《なに》か言《い》はうとしても言《い》へないで悶《もだ》えてゐました。
そして漸《やつ》と
「いまだからそんな口《くち》もきけるんだ。此《こ》の尼《あま》つちよめ!……貴樣《きさま》が花《はな》だつた時分《じぶん》ときたらな……どうだい、あの吝嗇《けち》くせえ小《ちつ》ぽけな、消《け》えてなくなりさうな花《はな》がさ。それでも俺《おい》らは何《んない》とも言ひやしなかつた……自分《じぶん》のことは棚《たな》に上《あ》げたなり忘《わす》れてしまつて。お前《めえ》はあれでも耻《はづか》しいとも何《なん》とも思《おも》つてはゐなかつたのか」とどもり吃《ども》り、つぎはぎだらけの仕返《しかえ》しをして、ほつと呼吸《いき》をつきました。
甜瓜《まくはうり》は葉《は》つぱのかげで、その間《あひだ》、絶《た》えずくすくす笑《わら》つてゐました。
けれども南瓜《かぼちや》はくやしくつて、くやしくつて、たまらず、その晩《ばん》、みんなの寢靜《ねじづ》まるのを待《ま》つて、地《ぢ》べたに頬《ほつぺた》をすりつけて、造物《つくり》主《ぬし》の神樣《かみさま》をうらんで男泣《をとこな》きに泣《な》きました。
機織蟲
蟲《むし》の中《なか》でもばつた[#「ばつた」に傍点]は賢《かしこ》い蟲《むし》でした。この頃《ごろ》は、日《ひ》がな一|日《にち》月《つき》のよい晩《ばん》などは、その月《つき》や星《ほし》のひかりをたよりに夜露《よつゆ》のとつぷりをりる夜闌《よふけ》まで、母娘《おやこ》でせつせと機《はた》を織《を》つてゐました。
母《はゝ》は親《おや》だけに、叮嚀《ていねい》に
「ギーイコ、バツタリ」と織《を》つてをりますが、性急《せつかち》な娘《むすめ》つ子《こ》は、
「ギツチヨン。ギツチヨン。ギ、ギツチヨン」とそれはそれは大《たい》へん忙《せわ》しそうなのです。
野《の》は桔梗《ききやう》、女郎花《をみなへし》のさきみだれた美《うつく》しい世界《せかい》です。その草《くさ》の葉《は》つぱのかげで
「ギーイコ、バツタリ」
「ギツチヨン。ギツチヨン」
ある時《とき》、そこへ森《もり》の方《はう》から、とぼとぼと腹這《はらば》ふばかりに一ぴきの※[#「※」は「虫へん+車」、32−4]《かな/\》があるいてきました。翅《はね》などはもうぼろぼろになつて飛《と》べるどころではありません。
機織蟲《ばつた》をみかけると
「毎日《まいにち》、毎日《まいにち》よくまあ、お稼《かせ》ぎですこと」と言《い》ひました。
「はい、仲々《なか/\》埒《らち》があきません。[#「あきません。」は底本では「あきまん。」と誤記]もう、遠《とほ》くの山々《やま/\》は雪《ゆき》がふつたつていひますのに」
「まあ! めつきり朝夕《あさゆう》が冷《つめた》くなりましてね」
「あなたは、もう冬《ふゆ》の準備《おしたく》は」
「その冬《ふゆ》の來《こ》ないうちに蟻《あり》どののお世話《せわ》にならなきやなりますまい」
「え、そんなことが……」
「さあ、なければないのが不思議《ふしぎ》なのです。おやおやお日樣《ひさま》も山《やま》がけへ隠《かく》れた。ではお早《はや》くおしまひになさいまし」
陸稻《をかぼ》畠《ばたけ》の畔道《あぜみち》を、ごほんごほんと咳入《せきい》りながら、※[#「※」は「虫へん+車」、33−7]《かな/\》はどこへゆくのでせう。金泥《きんでい》を空《そら》にながして彩《
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