いろど》つた眞夏《まなつ》のその壯麗《そうれい》なる夕照《ゆうせふ》に對《たい》してこころゆくまで、銀鈴《ぎんれい》の聲《こゑ》を振《ふ》りしぼつて唄《うた》ひつづけた獨唱《ソロ》の名手《めいしゅ》、天《そら》飛《と》ぶ鳥《とり》も翼《はね》をとどめてその耳《みゝ》を傾《かたむ》けた、ああ、これがかの夕日《ゆうひ》の森《もり》に名高《なだか》く、齢《とし》若《わか》き閨秀《をんな》樂師《がくし》のなれの果《はて》であらうとは!
 母娘《おやこ》は顏《かほ》をみあはせましたが、寂《さび》しさうにその何方《どちら》からも何《なん》とも言《ゆ》はず、そして※[#「※」は「虫へん+車」、34−4]《かな/\》のうしろ姿《すがた》がすつかり見《み》えなくなると、またせつせと側目《わきめ》もふらずに織《を》り出《だ》しました。
「ギーイコ、バツタリ」
「ギツチヨン。ギツチヨン」[#「ギツチヨン」」は底本では「ギツチチン」」と誤記]


 鸚鵡

 あるところに手《て》くせ[#「くせ」に傍点]の惡《わる》い夫婦《ふうふ》がありました。それでも子《こ》どもがないので、一|羽《は》の鸚鵡《あふむ》を子《こ》どものやうに可愛《かあい》がつてをりました。
 鸚鵡《あふむ》が人間《にんげん》の口眞擬《くちまね》をするのは、どなたもよくしつてをります。
 誰《だれ》か
「お早《はや》う」といへば、鳥《とり》もまた
「おはやう」と言《い》ひます。
 それから夜《よる》になつて灯《あかり》が點《つ》いて「おやすみなさい」ときくと、おなじやうに
「おやすみなさい」と喋舌《しゃべ》ります。
 ほんとに鸚鵡《あふむ》は愛嬌者《あいきやうもの》です。
 そこの家《いへ》にお客樣《きやくさま》がきました。すると鸚鵡《あふむ》が
「あんたは白瓜《しろうり》一|本《ぽん》、それつきり」といひました。お客樣《きやくさま》が
「え」と聽《き》きかへすと
「妾《わたし》はそれでも反物《たんもの》三|反《だん》」
 何《なに》が何《なん》だかさつぱり解《わか》りません。そこへお茶《ちや》を持《も》つてでてきたお上《かみ》さんにそのことを話《はな》すと
「ええ、昨晩《ゆうべ》、盗賊《どろぼう》にとられた物《もの》のことを言《ゆ》つてるのでせう」
 お客樣《きやくさま》がかへると
「お前《まえ》は、何《なん》て馬鹿《ばか》だらう。うつかり秘密話《ないしよばなし》もできやしない」と、大《たい》へん叱《しか》られました。鸚鵡《あふむ》は叱《しか》られてどぎまぎしました。多分《たぶん》、口《くち》まねが拙手《へた》なので、だらうとおもひまして、それからと言《い》ふものは滅茶苦茶《めちやくちや》にしやべり續《つゞ》けました。叱《しか》られれば叱《しか》られるほどしやべりました。
「ええ、ゆふべ、泥棒《どろぼう》……何《なん》て馬鹿《ばか》だろ……白瓜《しろうり》一|本《ぽん》、反物《たんもの》三だん……うつかり秘密話《ないしよばなし》もできやしない」
 夫婦《ふうふ》は困《こま》つてしまひました。そして、鳥屋《とりや》へもつて行《い》つて賣《う》りました、けれどそれが運《うん》の盡《つ》きでした。その嘴《くち》からの言葉《ことば》で、とうとう二人《ふたり》は捕《つかま》つて、暗《くら》い暗《くら》い牢獄《ろうごく》のなかへ投《な》げこまれました。


 土鼠の死

 土鼠《もぐら》が土《つち》の中《なか》をもくもく掘《ほ》つて行《ゆ》きますと、こつりと鼻頭《はながしら》を打《ぶ》ツつけました。うまいぞ。それが何《なん》だかよく見《み》もしないで、仲間《なかま》に氣《き》づかれないやうに、そのまま、そつと砂《すな》をかけて、知《し》らない顏《かほ》をして引《ひ》き返《か》えしました。あとで來《き》て、獨《ひと》りでそれを食《た》べやうとおもつて。
 途中《とちう》で友《とも》だちに逢《あ》ひました。
「どうしたんだ」
「む、大《おほ》きな木《き》の根《ね》つこで行《ゆ》かれやしない、駄目《だめ》だ」
 夜《よる》になりました。こつそりでかけました。そして見《み》て驚《おどろ》きました。「[#【「】は原文では【」】と誤記、43−10]なあんだ。こりや石《いし》じやないか。ちえツ、馬鹿々々《ばか/″\/″\》しい」
 そこへ、するすると意地《いぢ》の惡《わる》い蚯蚓《みゝず》が匍《は》ひだしてきました。
「何《なん》ぼ何《なん》でも石《いし》は喰《く》はれませんよ。晩餉《ごはん》はまだなんですか。そんならおしへて上《あ》げませう。此處《こゝ》を左《ひだり》へ曲《まが》つて、それから右《みぎ》に折《を》れて、すこし、あんたと昨日《きなふ》あつた路《みち》のあの交叉點《よつかど》です。品物《しなもの
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