《なにふじいう》なく暮《く》らして、住《す》んでをりました。
あるとき木菟《みゝずく》が水《みづ》をのみにきて、その蛙《かへる》の一ぴきに逢《あ》ひました。
「やあ、しばらくだね、蛙君《かへるくん》」
「木菟《みゝづく》さんか、何處《どこ》へ行《い》つてゐたんです」
「あんまり一つ所《どころ》も飽《あ》きたんで、あれから方々《はう/″\》、飛《と》び廻《まは》つてきたよ」
「へえ」
「何《なに》かおもしろい話《はなし》でもないかい」
「それは俺《わし》の方《ほう》からいふ言葉《ことば》でさあ。こうして此處《こゝ》で生《うま》れて此處《こゝ》でまた死《し》ぬ俺等《わしら》です。一つ旅《たび》の土産《みやげ》はなしでもきかせてくれませんか」
「とりわけてこれと云《い》ふ……何處《どこ》もみんな同《おんな》じですがね。……だが、あの星《ほし》の國《くに》へあそびに行《い》つて、宵《よひ》のうつくしい明星樣《めうじやうさま》にもてなされたのだけは、おらが一|生《しやう》一|代《だい》の光榮《くわうえい》さ」
と、蛙《かへる》がそれを遮《さへぎ》つて
「俺《わし》がいくら世間見《せけんみ》ずだと言《い》つて、出鱈目《でたらめ》はごめんですよ」
「何《なに》が出鱈目《でたらめ》だい」
「何《なに》がつて、あんたにや水潜《みづもぐ》りはできめえ。星《ほし》の國《くに》はね。此《こ》の池《いけ》の水底《みづそこ》にあるんですぜ」
「え」
「それでも嘘《うそ》でねえと云《い》ふんですか」
すると木菟《みゝづく》が
「蛙君《かへるくん》、きみはまあ何《なに》をゆつてるんだ。星《ほし》の國《くに》は、こうした樹《き》の上《うへ》の、そのもつと高《たか》いたかあいところにある天空《そら》なんだよ」
「そんなら二つあるのかね」
「二つなもんか、その天空《そら》にあるツきりさ」
「そんなことがあつてたまるもんか」
「馬鹿《ばか》だなあ」
「どつちが」
どつちもその所信《しよしん》を棄《す》てません。そのうちに、とつぷりと日《ひ》がくれて、月《つき》がでました。星《ほし》もでました。
蛙《かえる》が口惜《くや》しがつて
「あれ、あれが何《なに》よりの證據《しやうこ》じやないか、みたまへ。水《みづ》の底《そこ》を……」
木菟《みゝづく》が
「なるほどな。けれど上《うへ》をごらん、あれは
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