は人間《にんげん》だ、すこし窮屈《きうくつ》は窮屈《きうくつ》だが、それも風流《ふうりゆう》でおもしろいや。や、海《うみ》がみえるぞ、や、や、船《ふね》だ船《ふね》だ。なんといふことだ。子《こ》ども等《ら》もつれてくるんだつけな。どんなによろこぶだらう、お、お、電車《でんしや》、活動寫眞《くわつどう》の樂隊《がくたい》。とうとう町《まち》へ來《き》たんだな。えツ、ほんとに嬶《かゝあ》や子《こ》ども等《ら》をつれてくるんだつたに。あれ、向《むか》ふにみへるのは何《なん》だ。王樣《わうさま》の御殿《ごてん》かもしれねえ、自分《じぶん》はあそこへ行《ゆ》くのだらう。きつと王樣《わうさま》が自分《じぶん》をお召《め》しになつたんだ。お目《め》に懸《かゝ》つたら何《なに》を第《だい》一に言《ゆ》はう。そうだ。自分《じぶん》の主人《しゆじん》は慾張《よくばり》で、ろくなものを自分《じぶん》にも自分《じぶん》の子《こ》ども等《ら》にも食《た》べさせません、よく王樣《わうさま》の御威嚴《ごゐげん》をもつて叱《しか》つて頂《いたゞ》きたい。と、それから次《つぎ》には……」
かたりと荷車《にぐるま》がとまりました。豚《ぶた》は、はつとわれ[#「われ」に傍点]にかへつてみあげました。そこには縣立《けんりつ》畜獸《ちくじう》屠殺所《とさつじよ》といふ大《おほ》きな看板《かんばん》が掛《かゝ》かつてゐました。
虻の一生
かんかん日《ひ》の照《て》る炎天《えんてん》につツ立《た》つて、牛《うし》がなにか考《かんが》えごとをしてゐました。虻《あぶ》がどこからかとんできて、ぶんぶんその周圍《まはり》をめぐつて騷《さわ》いでゐました。
あまり喧《やかま》しいので、さすがに忍耐《にんたい》強《づよ》い牛《うし》も我慢《がまん》がし切《き》れなくなつたと見《み》え
「うるせえ、ちと彼方《あつち》へ行《い》つててくれ」と言《い》ひました。虻《あぶ》のやんちやん、そんなことは耳《みゝ》にもいれず、ますます蠅《はひ》などまで呼集《よびあつ》めて飛《と》び廻《まは》つてゐました。
「うるせえツたら」
「え」
「ちつと何處《どこ》へか行《い》つててくれよ」
「何《なん》で」
「うるせえから」
「はい、はい」
けれど仲々《なか/\》、行《ゆ》かうとはしません。
「はやく行《い》げ」
「行《ゆ》きます
前へ
次へ
全34ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング