かほ》をながめたり、からだ中《ぢう》の毛《け》を一|本《ぽん》一|本《ぽん》、綺麗《きれい》に草《くさ》で撫《な》でつけたり、稍《やゝ》、半日《はんにち》もかかりました。
「何《なん》てまあ、いい毛《け》だらう」と、それを第《だい》一に見《み》つけた猫《ねこ》が羨《うらや》ましさうに、まづ賞《ほ》めました。犬《いぬ》も狐《きつね》も野鼠《のねづみ》も、みな
「ほんとにねえ」と同意《どうい》しました。
 兎《うさぎ》はうれしくつてたまりませんでした。すると猫《ねこ》がまた
「けれど、どうも耳《みゝ》が長過《ながす》ぎるね」と、つくづくみてゐて批評《ひひやう》しました。
 それをきくと
「ほんとに、そう言《ゆ》はれてみると、そうだ」一|同《どう》は口《くち》を揃《そろ》えていひました。
 兎《うさぎ》は、はつと思《おも》ひました。そしてみんなの耳《みゝ》をみました。それから自分《じぶん》のを手《て》で觸《さは》つてみました。なるほど長《なが》い!
 そこで早速《さつそく》、理髪店《とこや》に行《い》つてその耳《みゝ》を根元《ねもと》からぷつりと切《き》つて貰《もら》ひました。おもてへ出《で》ると指《ゆびさ》して、逢《あ》ふもの毎《ごと》に笑《わら》ふのです。
「おや、耳《みゝ》のない兎《うさぎ》」
「何《なん》といふ不具《かたわ》でせうね」
 もうお祭《まつ》りどころではありません。いそいで、泣《な》きながら山《やま》へ歸《かへ》りました。
 山《やま》へ歸《かへ》ると、親兄弟《おやきやうだい》は勿論《もちろん》、友《とも》だちも驚《おどろ》いてしまひました。そしてかわいさうに此《こ》の兎《うさぎ》は一|生《しやう》の笑《わら》はれ者《もの》となりました。


 運ばれる豚

 いつも物置《ものおき》の後《うしろ》の、汚《きたな》い小舎《こや》の中《なか》にばかりゐた豚《ぶた》が、或《あ》る日《ひ》、荷車《くるま》にのせられました。
 此《こ》の豚《ぶた》は夢想家《むさうか》でした。
「なんと言《い》ふことだ。天氣《てんき》は上等《じやうとう》、此《こ》のとほりの青空《あをぞら》だ。かうして自分《じぶん》は荷車《にぐるま》にのせられ、その上《うへ》にこれはまた他《ほか》の獸等《けものら》に意地《いぢ》められないやうに、用意周到《よういしうとう》なこの駕籠《かご》。さすが
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