《ばか》な奴《やつ》らだ。もう秋風《あきかぜ》も立《た》つたじやないか、飢《う》ゑるも飽《あ》くも、それがどうした。運命《うんめい》はみんな一つだ」
蚤
一ぴきの蚤《のみ》が眞蒼《まつさを》になつて、疊《たゝ》の敷合《しきあは》せの、ごみの中《なか》へ逃《に》げこみました。そしてぱつたりとそこへ倒《たふ》れました。
晝寢《ひるね》をしてゐた友《とも》だちはびつくりして
「おい、どうしたんだい」と、その周圍《まはり》に集《あつま》りました。「またか。晝稼《ひるかせ》ぎになんかに出《で》るからさ。しつかりしろ、しつかりしろ」
その中《なか》で年嵩《としかさ》らしいのが
「でもまあ無事《ぶじ》でよかつた。人間《にんげん》め! もうどれほど俺達《おれたち》の仲間《なかま》を殺《ころ》しやがつたか。これを不倶戴天《ふぐたいてん》の敵《てき》とゆはねえで、何《なに》を言《ゆ》ふんだ。此《こ》の世《よ》はおろか、此《こ》のかたき[#「かたき」に傍点]は、生《うま》れかはつて打《う》たなけりやならねえ」
すると他《ほか》のが
「生れかはるつて、何《なに》にさ」
「人間《にんげん》によ」
「そんなら人間《にんげん》は」
「きまつてるじやねえか、蚤《のみ》さ」
その時《とき》、女《をんな》の聲《こゑ》
「ちえツ、いまいましいつたらありやしない。また。捕逃《とりに》がしてよ。あなたがぼんやりしてゐるんだもの」
やがて呼吸《いき》をふき返《か》へしたその蚤《のみ》
「おお、すんでのところ。小《ちつ》ぽけでも、たつた一つきやねえ生命《いのち》だ。危《あぶな》い。あぶない」
蝉は言ふ
富豪《ものもち》の家《いへ》では蟲干《むしぼし》で、大《おほ》きな邸宅《やしき》はどの部屋《へや》も一ぱい、それが庭《には》まであふれだして緑《みどり》の木木《きゞ》の間《あひだ》には色樣々《いろさま/″\》の高價《かうか》なきもの[#「きもの」に傍点]が匂《にほ》ひかがやいてゐました。
その中《なか》でもとりわけ立派《りつぱ》な總縫模樣《そうぬいもやう》の晴着《はれぎ》がちらと、塀《へい》の隙《すき》から、貧乏《びんぼう》な隣家《となり》のうらに干《ほ》してある洗晒《あらひざら》しの、ところどころあてつぎ[#「あてつぎ」に傍点]などもある單衣《ひとへもの》をみて
「みな樣《さま》
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