あつ》くなつて來《き》たね」
 こちらで
「ええ。そろそろとお互《たがひ》の生命《いのち》もさきが短《みじか》くなるばかりさ」
「何《なに》つ! けふも誰《だれ》か殺《や》られたつて」
 どこかで、鼻唄《はなうた》をうたつてゐる者《もの》があります。そうかと思《おも》ふと「誰《だれ》なの、そこでしくしく泣《な》いてゐるのは」
「あんまりくよくよするもんでねえだ」
「ふむ。べら棒《ぼう》め」
「南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》。南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》」


 蟹

 子蟹《こがに》の這《は》つてゐるのをみてゐた親蟹《おやがに》は苦《にが》い顏《かほ》をして言《い》ひました。
「それはまあ、何《なん》てあるき方《かた》なんだい。みつともない」
「どんなにあるくの」
「眞直《まつすぐ》にさ」
 從順《すなほ》な子蟹《こがに》はおしへられたやうに試《こゝろ》みました。けれどどうしても駄目《だめ》でした。で
「あるいてみせておくれよ」
「よし、よし。かうあるくもんだ」
 親蟹《おやがに》は歩《ある》きだしました。すると、こんどは子蟹《こがに》が腹《はら》をかかえて噴出《ふきだ》しました。
「それじや矢張《やつぱ》り、横《よこ》だあ」


 蛙

 お池《いけ》のきれいな藻《も》の中《なか》へ、女蛙《をんなかへる》が子《こ》をうみました。男蛙《をとこかへる》がそれをみて、俺《おれ》のかかあ[#「かかあ」に傍点]は水晶《すいしやう》の玉《たま》をうんだと躍《おど》り上《あが》つて喜《よろこ》びました。
 それがだんだんかわつて尾《を》が出《で》てきました。おたまじやくしになつたのです。男蛙《をとこかへる》はそれをみると氣狂《きちが》ひのやうになつて怒《おこ》りだしました。鯰《なまづ》の子《こ》をうんだとおもつたのです。
 遂々《とう/\》、變《かわ》りにかわつて、足《あし》ができ、しつぽが切《き》れて、小《ちひ》さいけれど立派《りつぱ》な蛙《かへる》になりました。男蛙《をとこかへる》はしみじみとその子《こ》を眺《なが》めて、なあんだ、どんなに偉《えら》い奴《やつ》がうまれるかと思《おも》つたら、やつぱり普通《あたりまへ》の蛙《かへる》かと、ぶつぶつ愚痴《ぐち》をこぼしました。
(「おとぎの世界」募集[#「募集」は底本では「募募」と誤記]童謠より)


 風

「なんてけち[
前へ 次へ
全34ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング