と熊《くま》とは、折《をり》ふし、こんな悲《かな》しい話《はなし》をしてはおたがひの身《み》の不幸《ふしあはせ》を嘆《なげ》きました。
他《ほか》の動物《どうぶつ》も、みんな同《おな》じやうに泣《な》いてばかりゐました。實《げ》に、動物園《どうぶつゑん》は動物《どうぶつ》の監獄《かんごく》でありました。
唯《たゞ》、狡猾《ずる》い猿《さる》だけは、こうして毎日《まいにち》何《なん》の仕事《しごと》もなく、ごろごろと惰《なま》けてゐても、それでお腹《なか》も空《す》かさないでゆかれるので、暢氣《のんき》な顏《かほ》をして、人間《にんげん》の子どもらの玩弄品《おもちや》になつて、いつもきやツきやツと騷《さわ》いでゐました。
頬白鳥
ものぐさ百姓《ひゃくせう》がある朝《あさ》、めづらしく早起《はやお》きして、畑《はたけ》で種蒔《たねま》きをしてゐました。それを頬白鳥《ほゝじろ》がみつけて
「おぢさん、今日《こんにち》は」といひました。
百姓《ひゃくせう》はねむそうな眼《め》を上《あ》げてみました。
「おお、誰《だれ》かとおもつたらお前《めえ》かえ。お前《めえ》さんもはやいね」
「え、おぢさん、これが早《はや》いんですつて。わたしはもう百《ひゃく》ぺんも歌《うた》ひましたよ。」[#底本では【」】が欠落]
すこし憤《むつ》とした百姓《ひゃくせう》
「それがどうしたと云《ゆ》ふんだ」
「何《なん》でもありませんよ。たゞね、私《わたし》はおさきへ失禮《しつれい》して、これからお茶《ちや》でも嚥《の》まうとしてるんです」
瓜畑のこと
「しつ! そら來《き》た」
いままで、ごろごろとのんきにころがつて罪《つみ》のない世間話《せけんばなし》をしてゐた瓜《うり》が、一|齊《せい》にぴたりとその話《はなし》をやめて、息《いき》を殺《ころ》しました。みんな、そして眠《ねむ》つた眞擬《ふり》をしてゐました。
お媼《ばあ》さんは、今日《けふ》もうれしさうに畑《はたけ》を見廻《みまは》して甘味《うま》さうに熟《じゆく》した大《おほ》きい奴《やつ》を一つ、庖丁《ほうてう》でちよん切《ぎ》り、さて、さも大事《だいじ》さうにそれを抱《かゝ》えてかえつて行《ゆ》きました。すると、また話《はなし》がひそひそと遠近《をちこち》ではじまりました。
彼方《あちら》で
「なかなか暑《
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