《ほか》の馬《うま》「ええ。いい見物《みもの》ですよ」
「あれで、これでも萬物《ばんぶつ》の靈長《れいちやう》だなんて威張《ゐば》るんですよ、時々《とき/″\》」
「私達《わたしたち》のことを、ほんとに、畜生《ちくしやう》もないもんだ」
「わたしや、氣《き》が附《つ》かなかつたが一|體《たい》、今日《けふ》のは何《なに》からですね」
「きかねえんですか。のんだ酒《さけ》の勘定《かんじやう》からですよ。去年《きよねん》の盆《ぼん》に一どお前《まへ》におごつたことがあるから、けふのは拂《はら》へと、あののんだくれ[#「のんだくれ」に傍点]の俺《わし》の奴《やつ》が言《ゆ》ふんです。するとあんたの方《はう》も方《はう》ですわねえ。うむ、そんなら貴樣《きさま》がこないだ途中《とちう》で、南京米《なんきんまい》をぬき盗《と》つたのを巡査《じゆんさ》に告《つ》げるがいいかと言《ゆ》ふんです」
「へええ。何《なん》て圖々《づう/″\》しいんでせうね」そうして[#「そうして」は底本では「そうし」と誤記]半《なか》ば獨白《ひとりごと》のやうに「自分《じぶん》でこそ毎日《まいにち》のやうにやつてる癖《くせ》に」
「人間《にんげん》つて、みんなこんなんでせうか」
「さあ」
「それはさうと[#「それはさうと」は底本では「それうさはと」と誤記]なかなか長《なが》いね」
「どうでせう、あの態《ざま》は」
喧嘩《けんくわ》はすぐには止《や》みませんでした。
馬《うま》と馬《うま》は仲善《なかよ》く、鼻《はな》をならべて路傍《みちばた》の草《くさ》を噛《か》みながら、二人《ふたり》が半死半生《はんしはんしやう》で各自《てんで》の荷馬車《にばしや》に這《は》ひあがり、なほ毒舌《どくぐち》を吐《は》きあつて、西《にし》と東《ひがし》へわかれるまで、こんな話《はなし》をしてゐました。
「さようなら」
「では、御機嫌《ごきげん》よう」
それをみてゐた大空《おほぞら》の鳶《とんび》が
「これがほんとに人間《にんげん》以上《いじやう》、馬《うま》以下《いか》つて言《ゆ》ふんだ。ぴいひよろ」と長《なが》いながい欠伸《あくび》をしました。
動物園
動物園《どうぶつゑん》には澤山《たくさん》の動物《どうぶつ》がゐました。
勘察加産《カムチヤツカさん》の白熊《しろくま》がある夏《なつ》の日《ひ》のこ
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