《なか》では赤《あか》い舌《した》をぺろりとだして
「こいつあ、人間《にんげん》のある者《もの》によく似《に》てけつかる。それも善《い》い事《こと》ならいいが、ろくでもねえところなんだから、堪《たま》らねえ」
鴉と田螺
麗《うらら》かな春《はる》の日永《ひなが》を、穴《あな》から這《は》ひだした田螺《たにし》がたんぼで晝寢《ひるね》をしてゐました。それを鴉《からす》がみつけてやつて來《き》ました。海岸《かいがん》で、鳶《とび》と喧嘩《けんくわ》をして負《ま》けたくやしさ、くやしまぎれに物《もの》をもゆはず、飛《と》びをりてきて、いきなり強《つよ》くこつんと一つ突衝《つゝ》きました。
「あ痛《いた》!」
こつん、こつん、こつんとつゞけざまの慘酷《むごたら》しさ。
「いたいよう。ごめんなさいよう」とあげる田螺《たにし》の悲鳴《ひめい》。それを藪《やぶ》にゐた四十|雀《から》がききつけて
「まあ兄《にい》さん、何《なに》をするんです。そんな酷《ひど》い目《め》にあはせるなんて、われもひとも生きもんだ[#「われもひとも生きもんだ」に傍点]、つてこともあるじやありませんか」
すると鴉《からす》が
「なんだと、えツ、やかましいわい。此《こ》のおしやべり小僧《こぞう》め!」
「でもね、われもひとも生きもんだ[#「われもひとも生きもんだ」に傍点]、つてことが……」
「ええ、うるせえ」と云《い》ふよりはやく飛《と》び掛《かゝ》りました。けれど四十|雀《から》はもうどこにも見《み》えません。ちええ。そればかりか、折角《せつかく》のごちさう[#「ごちさう」に傍点]はとみれば、その間《あひだ》に、これはまんまと、穴《あな》へ逃《に》げこんでしまつてゐるのです。そして穴《あな》の口《くち》から頭《あたま》をだして
「おい、ここだよ」
仲善し
馬方《うまかた》と馬方《うまかた》が喧嘩《けんくわ》をはじめました。砂《すな》ツぽこりの大道《だいどう》の地《ぢ》べたで、上《うへ》になつたり下《した》になつたり、まるであんこ[#「あんこ」に傍点]の中《なか》の團子《だんご》のやうに。そして双方《そうほう》とも、泥《どろ》だらけになり、やがて血《ち》までがだらだら流《なが》れ出《だ》しました。
一人《ひとり》の方《ほう》の馬《うま》が「またはじまりましたね」と言《い》ふと
他
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