「もう知《し》らない。笑《わら》われるから、はやくお出《い》で」
「あああ、あんなものが來《き》た、黒《くれ》え煙《けむ》をふきだして……」
「よ、そらまた」
母馬《おやうま》は煩《うるさ》さにがつかりして歸路《きろ》につきました。町《まち》はづれまでくると、仔馬《こうま》は急《きふ》に歩《ある》きだしました。はやく家《いへ》へかへつてお乳《ちゝ》をねだらうとおもつて。
「早《はや》くさ、かあちやん。かあちやん、つてば。ぐずぐず道草《みちくさ》ばかり食《た》べてゐて」
けれど憐《あは》れな母馬《おやうま》はもう酷《ひど》く疲《つか》れてゐるのでした。
月《つき》がでました。
ほろゑひきげんの百姓男《ひやくせうをとこ》、今《いま》はすつかり善人《ぜんにん》になつて、叱言《こごと》を一つ言《い》ひません。
「あれ、あれ、お家《うち》の灯《あかり》がみへる。もうすぐだよ。母《かあ》ちやん」
木と木
老木《らうぼく》
「こんなに年老《としよ》るまで、自分《じぶん》は此《こ》の梢《こづゑ》で、どんなにお前のために雨《あめ》や風《かぜ》をふせぎ、それと戰《たゝか》つたか知《し》れない。そしてお前《まへ》は成長《せいちやう》したんだ」
若《わか》い木《き》
「それがいまでは唯《たゞ》、日光《につくわう》を遮《さえぎ》るばかりなんだから、やりきれない」
家鴨の子
家鴨《あひる》の子《こ》が田圃《たんぼ》であそんでゐると、そこをとほりかかつた雁《がん》が
「おうい、おいらと行《い》がねえか」
「どこへさ」
「む、どこつて、おいらの故郷《こきやう》へよ。おもしろいことが澤山《たんと》あるぜ。それからお美味《いし》いものも――」
「ほんとかえ」
「ほんとだとも」
「そんならつれていつておくれ」
「いいとも、けれど飛《と》べるか」
家鴨《あひる》に天空《そら》がどうして飛《と》べませう。それども一生懸命《いつしやうけんめい》とびあがらうとして飛《と》んでみたが、どうしても駄目《だめ》なので泣《な》きだし、泣《な》きながら小舎《こや》にかへりました。
雁《がん》はわらつて行《い》つてしまひました。
小舎《こや》に歸《かへ》つてからもなほ、大聲《おほごゑ》で泣《な》きながら「おつかあ、おいらは何《なん》で、あの雁《がん》のやうに飛《と》べねえだ。おいらにもあん
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