いお話《はなし》を」
「ふむむ。それでは一つ聽《き》いてやらうか」
「あんたがしなさいな、何《なに》か」
「俺《おれ》は話《はなし》なんか知《し》らない」
「そんなら……ねえ、唄《うた》つておくれよ、いい聲《こゑ》で」
「唄《うた》か。それも不得手《ふゑて》だ」
「まあ何《なん》にも出來《でき》ないの。ほんとにあんたは鶯《うぐひす》のやうな聲《こゑ》もないし、孔雀《くじやく》のやうな美《うつく》しい翼《はね》ももたないんだね」
怖《こわ》い目《め》をして烏《からす》がだまりこんだので、雀《すゞめ》らは高《たか》い松《まつ》の木《き》のうへへ逃《に》げながら
からす
からす
廣《ひろ》い世界《せかい》の
にくまれもの
けふも墓場《はかば》で啼《な》いてゐた
かあ、かあ
それをきくと烏《からす》は噴《ふ》き出《だ》さずにはゐられませんでした。
「へつ、此《こ》の弱蟲《よわむし》! そんなら貴樣《きさま》らには、何《なに》ができる。此《こ》の命知《いのちし》らず奴《め》!」そして肩《かた》をそびやかして睨視《にら》めつけました。
「おれは強《つよ》いぞ」
石芋
百|姓《せう》のお上《かみ》さんが河端《かわばた》で芋《いも》を洗《あら》つてをりました。そこを通《とほ》りかけた乞食《こじき》のやうな坊《ぼう》さんがその芋《いも》をみて
「それを十ばかり施興《ほどこ》してください」と頼《たの》みました。「私《わたし》はお腹《なか》が空《す》いてゐるのだ」
お上《かみ》さんはちらと見上《みあ》げました。けれど腰《こし》も立《た》てませんでした。そして
「駄目々々《だめ/″\/″\》、これは食《た》べられません。石芋《いしいも》です」と、くれるのがいやさに、そう言《ゆ》つて嘘《うそ》を吐《つ》きました。
「はあ、さうですか」
坊《ぼう》さんは強《し》ひてとも言《ゆ》はず、それなり何處《どこ》へか掻《か》き消《け》すやうにゐなくなりました。芋《いも》がすつかり洗《あら》へたから、それをお上《かみ》さんは家《いへ》にもち歸《かへ》り、そしてお鍋《なべ》に入《い》れて煮《に》ました。しばらくして、もう煮《に》えたらうと一つ取出《とりだ》して囓《かぢ》つてみました。固《かた》い。まるで石《いし》のやうです。も少《すこ》したつて、また取出《とりだ》してみました。矢張《やつぱ
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