って、こんな不思議を見せるのだと思い、迚《とて》も※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《のが》れぬと観念した、自訴《じそ》せんと取《とっ》て返《か》えす途上|捕縛《ほばく》されて、重刑に処せられた、これは当時この犯人捜索を担当して尽力した京都警察本部の某刑事の話しである。

◎先年|伊勢《いせ》の津《つ》へ赴き、二週間|斗《ばか》り滞在した事があった、或《ある》夜友人に招かれて、贄崎《にえさき》の寿楼《ことぶきろう》で一酌を催し、是非《ぜひ》泊れと云《いっ》たが、少し都合が有《あっ》て、同所を辞したのは午前一時頃である、楼婢《ろうひ》を介して車を頼《たのん》だが、深更《しんこう》に仮托《かま》けて応じてくれ無い、止むを得ず雨を衝《つい》て、寂莫《じゃくばく》たる長堤を辛《ようや》く城内まで漕《こぎ》つけ、藤堂采女《とうどううねめ》、玉置小平太《たまおきこへいた》抔《など》云う、藩政時分の家老屋敷の並んでいる、里俗鰡堀《りぼくりゅうぼり》へ差懸《さしかか》ると俄然《がぜん》、紫電一閃《しでんいっせん》忽《たちま》ち足元が明《あかる》く成《なっ》た、驚《おどろい》て見ると丸太ほどの火柱が、光りを放って空中へ上る事、幾百メートルとも、測量の出来ぬくらいである、頓《やが》てそれがハラハラと四方に飛散する状《さま》は、恰《あたか》も線香花火の消《きえ》るようであった、雨は篠《しの》を束《つか》ねて投《なぐ》る如きドシャ降り、刻限は午前二時だ、僕ならずとも誰でもあまり感心《かんしん》はしまい。翌日旅館の主人に当夜の恐怖談をすると、彼は微笑して嘲《あざけ》るかの如き口吻《こうふん》で、由来伊勢には天火が多い、阿漕《あこぎ》の浦《うら》の入口に柳山《やなぎやま》と云う所がある、此処《ここ》に石の五重の塔があって、この辺《あたり》から火の玉が発し、通行人を驚かす事は度々《たびたび》ある、君が鰡堀《りゅうぼり》で出会《であっ》たのも大体《だいたい》同種の物だろう、と云いおわって、他を語り毫《ごう》も不思議らしくなかったのが、僕には妙に不思議に感じられた。

◎木挽町《こびきちょう》五丁目辺の或る待合《まちあい》へ、二三年以前|新橋《しんばし》の芸妓《げいぎ》某が、本町《ほんちょう》辺の客を咥《くわ》え込んで、泊った事が有った、何でも明方だそうだが、客が眼を覚して枕を擡
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