鬼無菊
北村四海

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)信州《しんしゅう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)数年|前《ぜん》
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 信州《しんしゅう》の戸隠《とがくし》山麓なる鬼無村《きなしむら》という僻村《へきそん》は、避暑地として中々《なかなか》佳《よ》い土地《ところ》である、自分は数年|前《ぜん》の夏のこと脚気《かっけ》の為《た》め、保養がてらに、数週間、此地《ここ》に逗留《とうりゅう》していた事があった。
 或《ある》日の事、自分は昼飯を喫《た》べて後《のち》、あまりの徒然《とぜん》に、慰み半分、今も盛りと庭に咲乱《さきみだ》れている赤い夏菊を二三|枝《し》手折《たお》って来て、床の間の花瓶に活《い》けてみた、やがてそれなりに自分はふらりと宿屋を出て、山の方へ散歩に行ったのである、二時間ばかりして宿屋へ帰った、直《す》ぐ自分の部屋へ入ると私は驚いた、先刻《さっき》活《い》けたばかりの夏菊が最早《もう》萎《しお》れていたのだ、一体《いったい》夏菊という花は、そう中々《なかなか》萎《しお》れるものでない、それが、ものの二時間も経《へ
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