ら》(羽左衛門《うざえもん》)と東京座で『四谷怪談』をいたします。これまで祖父《じじい》の梅壽《ばいじゅ》さんがした時から、亡父《おやじ》の時とも、この四谷をするとは、屹度《きっと》怪しい事があるというので、いつでもいつでもその芝居に関係のある者は、皆おっかなびっくりでおりますので、中には随分《ずいぶん》『正躰《しょうたい》見たり枯尾花《かれおばな》』というようなのもあります。しかし実際をいうと私も憶病なので、丁度《ちょうど》前月の三十日の晩です、十時頃『四谷』のお岩様の役の書抜《かきぬき》を読みながら、弟子や家内《かない》などと一所《いっしょ》に座敷に居ますと、時々に頭上《あたまのうえ》の電気がポウと消える。おかしいなと思って、誰か立ってホヤの工合《ぐあい》を見ようとすると、手を付けない内に、またポウとつく。それでいて、茶《ちゃ》の間《ま》や他《ほか》の間《ま》の電気はそんな事はないので、はじめ怪しいと思ったのも、二度目、三度目には怖気《おじけ》がついて、オイもう止《よ》そう、何だか薄気味が悪いからと止《よ》したくらいでした。
▲『四谷』の芝居といえば、十三年前に亡父《おやじ》が歌舞
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