伎座でした時の、伊右衛門《いえもん》は八百蔵《やおぞう》さんでしたが、お岩様の罰《ばち》だと言って、足に腫物《しゅもつ》が出来た事がありました。今度私に突合《つきあ》って、伊右衛門をするのは、高麗蔵さんですが、自分は何ともないが、妻君の目の下に腫物《しゅもつ》が出来て、これが少し膨《は》れているところへ、藍《あい》がかった色の膏薬《こうやく》を張っているので、折《おり》から何だか、気味を好《よ》く思っていないところへ、ある晩高麗蔵さんが、二階へ行《ゆ》こうと、梯子段《はしごだん》へかかる、妻君《さいくん》はまた威《おど》かす気でも何でもなく、上から下りて来る、その顔に薄く燈《あかり》が映《さ》して、例の腫物《しゅもつ》が見えたので、さすがの高麗蔵さんも、一寸《ちょっと》慄然《ぞっ》としたという事です。
▲また東京座も、初日になると、そのような意味の怪談(?)もありましょうけれども、まあまあ今申し上げるお話はこのくらいなものです。



底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
   2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
 
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