怪めいた話が出ている。それがしかも頗《すこぶ》る熱心に真面目に説いてある。一言《いちげん》にして尽《つ》くせば、自分の昵近《じっこん》な人の間に何か不吉なことがあると、それが必らず前兆になって現われる。いかなる前兆となって現われるかというに叩く音!
どんな風に叩く音かといえばコツコツと叩く音だ。ハークマのお母さんの死んだ時もそうであったと叙《の》べている。この人には二どめの妻君《さいくん》があって、この妻君《さいくん》も死ぬことになるが、その死ぬ少し前に、ハークマは慥《たし》か倫敦《ロンドン》へ行っていて、そして其処《そこ》から帰《か》える。一体《いったい》この人の平素《ふだん》住んでいるのは有名なブッシュというところで、此処《ここ》には美術学校もあるし、この土地はこの人に依《よ》って現われたので、ハークマのブッシュかブッシュのハークマかと謳《うた》われていたくらい、つまりこの怪談の場所は此処《ここ》になるのだが、その倫敦《ロンドン》から帰ってきた時は、恰《あだ》かもその妻は死に瀕《ひん》していた時で、恰度《ちょうど》妹がいて妻の病を看《み》ていた。その時部屋の窓の外に当《あた》って
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