を通って、小使部屋の前にくると内で蕭然《しょんぼり》と、小使が一人でさも退屈そうに居るから、弟も通りがかりに、「おい淋しいだろう」と談《はな》しかけて、とうとう部屋へ入《い》って談込《はなしこ》んでしまった。その時に、弟が小使に向って、「斯様《こん》な室《しつ》に、一人で夜遅く寝ていたら、さぞ物凄い事もあるだろう」と訊ねると、彼は「今では、最早《もはや》馴れましたが、此処《ここ》へ来た当座は、実に身の毛も竦立《よだ》つ様な恐ろしい事が、度々ありました」というので、弟は膝《ひざ》を進めて、「一躰《いったい》、それは如何《どん》な事だった」と強《し》いて訊ねたので、遂《つい》に小使が談《はな》したそうだが、それはこうであったというのだ。一躰《いったい》、この小使部屋のあるところというのは、中庭を間に、一方が死体室で、その横には、解剖学の教室があるのだが、この小使が初めて来たのが、恰《あたか》も冬のことで、夜一人で、その部屋に寝ていると、玻璃《がらす》窓越しに、戸外《そと》の中庭に、木枯《こがらし》の風が、其処《そこ》に落散《おちち》っている、木の葉をサラサラ音をたてて吹くのが、如何《いか》
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