て指を繰《く》ってなどしていたが、やがてポンと膝《ひざ》を叩いていうには、「それじゃ、全く私の声だったかもしれない、というのは、その日は恰度《ちょうど》、○○の大戦争があった日なので、私もその時に、この足をやられて遂《つい》に仆《たお》れたのだが、何しろ戦争が激しいので、負傷者などを、構ったりなどしていられないから、仆《たお》れた者は、それなりにして、全軍は前方へ進んで行った、私はその晩一夜、寒い霜の夜に曝《さら》されたなり、病院にも入れられず、足の疵《きず》の痛いので苦悶をしていると、この時まざまざと故郷の事などが、眼の前に浮んで来るので、私は思わず「お母さん、お母さん」と一口《ひとくち》二口《ふたくち》叫んだが、それが丁度《ちょうど》その時刻頃であったろう」と、従兄自身も不思議な顔をして語ったので、傍《そば》に居たその男も、頗《すこぶ》る妙に感じたと、その夜その男が談《はな》したが、これ等《ら》も矢張《やっぱり》、テレパシーとでもいうのであろう。
底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日第1刷発行
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