たろうか、すると驚いたのは母が現在自分の夫[以下、四字分の伏字あり]した事である。床中《しょうちゅう》に呻吟《しんぎん》してこの事を知った娘の心は如何《どう》であったろう、彼女《かれ》はこれを聞《きい》てから病《やまい》も一《ひと》きわ重《おも》って、忘れもしない明治三十八年八月二十一日の夜というに、終《つい》にこの薄命な女は、呪うべき浮世を去ったのである、さすがの夫もまさかこの夜は傍《そば》に居たかと思いの外、この夕方女は咯血《かっけつ》をして、非常に衰えていたのを見知っていながら、夫は母と共に外出して夜更《よふ》けても帰って来ない、もう病人は昏睡状態に陥《おちい》って婢中《じょちゅう》の腕《かいな》に抱《だか》れていたが、しきりに枕の下を気にして口をきこうとして唇をかすかに動かせども、もう声が出ない、またもやしきりに烈《はげ》しく血を吐いたが遂《つい》にそのまま睡《ねむ》るが如くに息は絶えた。間もなく二人は帰って吃驚《びっくり》したがそれ程にも悲しい様子でもない、早速《さっそく》実家の父親へ使《つかい》を走らして、飛んで来た父親だけはさすが親子の情ですくなからず、悲歎の涙にくれてい
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