《ざま》箸の上《あ》げ下《お》ろしさては酌《しゃく》の仕方が悪《わ》るいとか、琴を弾くのが気にくわぬとか、打ち打擲《ちょうちゃく》はまだしもの事、或《ある》時などは、白魚《しらお》の様な細指を引きさいて、赤い血が流れて痛いので妻《かない》が泣くのを見て、カラカラと笑っていると云った様な実に狂気《きちがい》じみた冷酷の処置であった。あまりといえばあまりの事、さりとて実家に帰ってこの苦痛を訴えて両親に心配させるのもこの女の出来ぬ事だし、兼《かね》て自分とは普通|一片《いっぺん》の師匠以上に親しんでおったので、或《ある》時などは私の許《とこ》へ逃げてきて相談をした事もあった、私も頗《すこぶ》る同情に堪《た》えなかったが、別にこの縁談については中に立ったというわけでもなし、旁々《かたがた》下手に間に入って口をきくと、反《かえっ》て先方《せんぽう》から怨《うら》まれなどした事もあったので、恰《あだか》も向岸《むこうぎし》の火事を見る様に傍《かたわら》で見ていて如何《どう》する事も出来ず、唯《ただ》はらはらと気を揉《も》んでいたばかりであった。
 そうこうする内に、これらの苦痛や煩悶がもとで前より
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