にと買い賜《たま》われたものだ、数千《すせん》人の聴客を以《もっ》て満たされた、公開堂《こうかいどう》の壇上、華かなる電燈の下で、満場の聴衆が喝采《かっさい》の内に弾きならしたはこの琴であります、またこの一|面《めん》は過ぎし日|妾《わたし》が初めて、自宅《うち》にて教授をする時に妾《わたし》の僅《わず》かなるたくわえにて購《あがな》いしもので、二面共に妾《わたし》にとっては忘る可《べか》らざる紀念《きねん》の品である、のみならず、この苦しく悲しき長《なが》の月日のこの中外《うちそと》を慰めたのもこの品、仮令《たとえ》妾《わたし》には数万金《すまんきん》を積むとてかえがたき二品《ふたしな》なれど、今の際《きわ》なれば是非も一なく、惜しけれど、終《つい》に人手にわたす妾《わが》胸中は如何《いか》ばかり淋しき思《おもい》のするかは推《すい》したまわれ、されど、たとえ人手に渡さばとて、やがてこの二面の琴は、師の君が同門の人に由《よ》りて購《あがな》わるることを保証します。自分は今この二品《ふたしな》の琴樋《ことひ》の裏に貼紙をなして妾《わたし》の日頃|愛玩《あいがん》せることを記しおきければ
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