狸問答
鈴木鼓村
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)或《あるい》は
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この時|傍《そば》で
−−
私は、よく怪物に勝つことがあるよ、しかし或《あるい》は負けていたのかもしれないがね――
数年前《すねんぜん》、さる家を訪ねて、昼飯《ちゅうはん》の馳走に与《あずか》って、やがてその家を辞して、ぶらぶら向島《むこうじま》の寺島村《てらじまむら》の堤《つつみ》にかかったのが、四時頃のことだ、秋の頃で戸外《おもて》は未《ま》だ中々《なかなか》明《あか》るい、私が昼の膳に出してくれた、塩鰹《しおかつお》が非常に好味《うまい》といったので、その主人が、それなら、まだ残っているこの片身を持って行《ゆ》きたまえというので、それを新聞紙に包んでもらって、片手に提《さ》げながらやってくると、堤《どて》の上を二三町歩むか歩まぬ内《うち》突然、四辺《あたり》が真暗に暮れてしまった、なんぼ秋の日は釣瓶落《つるべおとし》だと云ったって、今の先《さき》まで、あんなに明《あか》るかったものが、こんな急に、暗くなる道理はない、その時分に
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