は未《いま》だあの辺《あたり》も開《ひら》けぬ頃で、あたりはもう、あまり人通りもないのだ、こいつ必ず何かの悪戯《いたずら》だろうと気がついたから、私は悠然とその堤《どて》の草の上に腰をおろして、さて大声をはりあげて怒号《どな》った、この時|傍《そば》で誰か聞いていたら、さぞ吹出《ふきだ》したろうよ、
「やい、狐か狸か知らないが、よく聞け、貴様は、今|己《おれ》が手に持っておる、この鰹《かつお》が欲しいので、こんな悪戯《いたずら》をするのだろう、己《おれ》は貴様達に、そんな悪戯《いたずら》をされて、まざまざとこの大事な魚《うお》を、やるような男ではないぞ、今己《おれ》はここで、美事《みごと》にこれを、食ってしまうから、涎《よだれ》でも垂らしながら見物しろ」
 といって、紙の内から、例の塩鰹《しおかつお》を出して私はムシャムシャ初めて、とうとう皆食い終《おわ》って、
「モウ、皮でも食らえ」
 といいながら、前の方へ、投出《ほうりだ》すと、見《み》る見る内《うち》に、また四辺《あたり》が明るくなったので、私も思わず、笑いながら、再び歩出《あゆみだ》して、無事に家に帰ったが、何しろ、塩鰹《しお
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